ずるくしたたかな

百目鬼×四月一日




ずるくしたたかな


 百目鬼の部活後、お弁当箱を取り返すために仕方なく彼を待っていた四月一日は、やけに楽しげに話をしていた。ただ、普通の人には一人で話している姿にしか映らない。百目鬼は、またかと思いながらも四月一日に向かってお重を差し出した。
「何と話してた」
「…また、ヒトじゃなかったんだ」
「俺には見えなかっただけだ」
 ぐったりと項垂れる四月一日をじっと見つめる百目鬼は、夕日に照らされる彼の姿に徐に手を伸ばした。
「影が薄くなってる」
「はぁ?」
 一度生気を吸い取られ、儚くなりかけた四月一日に対して彼なりに気を遣っているらしい。
「だからって…」
「ちょっとじっとしてろ」
 まるで恋人を抱き寄せているかのように四月一日を胸に仕舞いこんだ百目鬼は、それ以上何も言わずに陰を見つめていた。
「少し戻った」
「は?へ?」
「帰るぞ」
「ちょ、説明しろよ!」
 肩を抱いたまま帰ろうとする百目鬼に怒鳴りつつ引き離そうとするが、体格の良い彼はびくともしない。
「離せーっ!」
「離したら薄くなるだろ」
 幸か不幸か通りがかる人もいなければ、百目鬼が傍にいることによって近寄ってくる妖もいない。
「離してやってもいいが、代わりに侑子さんに教えて貰った…」
「やめろー!」
 四月一日の叫びも空しく、百目鬼は彼女に教えられたとおりのことを素直に実行した。それは、唐突で理不尽な優しいキス。
「っ……」
 それは触れるだけでは終わらず、ぬめる舌が四月一日の口腔内を好き勝手に弄り倒す。
「んーっんーっ」
 抵抗する四月一日の声は全て百目鬼に吸い取られ、代わりに温かい何かが流れ込む。
「吸い取られた生気を回復させるにはこれが一番手っ取り早いと教わった」
「だ、からって…舌まで…入れ…」
「それは俺の趣味だ」
 本当は口を合わせて息を吹き込むだけでいいけれど、と意味ありげに言われたそれを、百目鬼は自分なりの解釈で実行した。
「どういう意味だよっ」
「明日の弁当は三角稲荷がいい」
「また稲荷かよ!」
 単なる救済措置に過ぎなくても、誤魔化しても、キスはキス。それに、四月一日はまだ気付かない。

2006年2月発行ペーパーおまけSS