そっと静かに

黒鋼×ファイ




そっと静かに


「黒むー、動いちゃいやーん」
「気持ち悪い声出すなっ」
 黒鋼が怒鳴りつける声に驚くこともなく、ファイは縛られたままの手を伸ばすことなく自由な口を男に近づけた。肩口についていたそれは、白くてふわふわしたもの。
「ん」
「ただの羽じゃねーか」
 サクラのものではなく、ただの鳥の羽であるそれを、ファイはにんまりと笑って咥えていた。
「黒様、黒いから白いものがあったらすぐわかるんだもん」
「悪かったな」
「んーんー。むしろ、羨ましい、かもね」
 何が混ざっていたとしても自分は流れとして受け入れてしまうから、とファイは自嘲する。自虐心丸出しな台詞の癖に常と変わらぬ笑顔を保つ彼に、黒鋼は内心舌打ちをしていた。彼の、自らを低く見るところが気に召さないのだ。
黒鋼もファイと同じように後ろ手に縛られているのに、二人共に焦りも何も感じられない。いつでも自由になれるのに、あえてそれをしないようだった。
「小狼君たち無事かなぁ?」
「当たり前だろ」
「羽は取り戻せたかなぁ」
「でないと俺たちが人質になっている意味がねーだろ」
 ふいっと横を向くも意味がなく、更に笑みを深めた綺麗な顔に覗き見られる。
「だよねーでもさぁー」
「お前ちょっと静かにしろよ」
 黒鋼を追いかけては絶え間なくしゃべり続けるファイとの受け答えにも疲れたのか、うんざりとした声でもってファイを睨みつけた。
「だって暇なんだもーん」
「黙らせっぞてめぇ」
「どうやってー?」
「自由になるのはここだけだろ」
 ファイがした事と似て非なることを黒鋼は彼にやってのける。まさか黒鋼が「それ」をするとは思っていなかったファイは、不覚にも顔を赤らめて、彼をまじまじと見返した。
「黒様……」
「しゃべるなっつったろ」
「えっち」
「だーっもう、いい加減にしろ」
 怒りに任せて手を縛っている縄を引き千切りそうになったとき、今度はファイのほうから唯一自由になる部分で持って黒鋼の口元にそっと触れた。
「怒らないで、黒様。オレ、えっちな黒様好きだから」
「……ふん……」
 少し機嫌を良くした黒鋼にぽすんと凭れかかり、ファイは男を仰ぎ見た。あわよくば、また唇が降ってこないかと期待して。

2006年2月発行ペーパーおまけSS